『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。』
山本 五十六

気がつけば自分が班長として工場のメンバーをまとめる立場になっていた。

最近、工場の若い奴らと接する機会が多くなった。

『最近の若い奴らは』なんて言葉、

自分が使うとは思ってもいなかった。

というか自分もそんな歳になったってことか。

最近の若い奴らは、どうにも仕事に対しての、それどころか普段の生活にも熱意を感じない。
『かっこいい車に乗りたいと思わないのか?』

『休日にやりたいことってないのか?』

そんな質問にも、
『え~、まぁ…』とか『車に興味ないですし…』
とか歯切れの悪い答えが返って来ることが多い。

俺が社会人になったばかりの頃は、スポーツカーに乗りたかった。
服やアクセサリーも色々持ちたかった。
その上で将来、結婚するための資金も欲しかった。

ともかく、日々を楽しむため、生活充実させるために金が欲しくて、毎日必死に働いた。

その頃の自分と同年代の奴ら。
『車には興味ないっすから』
『休みの日は1日家から出ないです』

そんな答えしか帰ってこない。

『最近の若い奴らは…』

例の言葉が口をついて出る。

仕事を終え、家でビールを飲みながら、自分の過去を振り返る。

(俺があのくらいの歳のころと今、何が。そんなに違うんだ?)
(本人のやる気だけか?)

確かに自分や恋人、結婚した後は子供たちのため。

仕事のモチベーションを支えたのはその辺だったのは確かだ。
ただ、今思い返してみればそれでも挫けそうになったことだって1度や2度ではなかったと思う。

(そんな時、どうして頑張れたんだろう?)
そう考えた時、頭に浮かんできたのは今の会社に入る前に、製造業にはいったばかりの自分に仕事を教えてくれた、先輩たちの顔だった。

俺も仕事頑張ってたけど、自分に仕事を教えてくれた先輩たちは、さらにパワフルだった。

深夜1時、2時でも平気で仕事してたっけ。

時にはそこから飲みに行って、次の日は何事もなかったように仕事をしていた。

仕事だけじゃなく、プライベートな悩みもいろいろ相談したっけ。

あの人たちが、かっこいい車乗ってたから自分も欲しくなった。
あの人が、家族を大切にしているのを見て、自分もそうしなきゃいけないんだと言う事を学んだ。

休日も時間を無駄にせず、力いっぱい楽しむことも見せてくれた。

かっこよかった。仕事もプライベートも。

(あ…そうか、俺はあんな身近に手本があったんだな。)
そう感じた。

今、俺はあの人たちと同じ立場だろう。

(今の俺って、あいつらにとってかっこいい先輩なのか?)

やる気を出せって言ってるが、俺はやる気を見せているのか?
お前らにやりたいことはないか? って言ってるが、俺自身は明確にやりたいことあるのか?

やらなきゃいけない事、
やったほうがいい事、
やっちゃダメな事。
仕事のやり方、
心構え・・・。

見るだけでそれらを伝えられるような大きな存在。
あの頃の俺たちにはそんな人がいた。

いまの若い奴らには…。
まだ、俺らはそんな大きな存在には慣れていないのかもしれない。

『今の若い奴らは…』
その言葉、ちょっと形を変えてそのまま俺たちにも当てはまっているのかもしれない。

『今の班長クラスの奴らは』
頼りがいがあるか?
やる気、熱意があるか?

そしてなにより、かっこよく生きてるか?
もう一度、先輩たちのことを思い出し、

あの人たちに負けない存在になると心に決め、グラスのビールを飲み干した。

3ヶ月前のことだ。

それから、自分の目標を決めた。

英語を勉強し、海外進出するときには真っ先に手を上げよう。
通勤時間に、流行りの英語CDで英会話の勉強を始めた。

今は、旋盤加工しかできないが、フライス加工もできるようにしよう。
職業訓練校の夜間講習で、NCフライスの加工を勉強し始めた。
休みの日も時間を無駄にしないようにしよう。

自然の中歩くのが好きだったので軽く登山を始めて見た。
積極的に班の若い連中と会話をすることにした。
自分から、家族の話をしてみる。

少しは、職場に元気が出てきたか?
ちょっとずつ若い奴らとの距離が縮まってきた実感がある。

やる気がないように見えるのは何も若い奴らのせいだけじゃない。
そうさせてしまったのは、やっぱりあいつらの先輩である俺らのせいでもある。

『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。』
いつか聞いた山本五十六の言葉が思い浮かぶ。

仕事だけではなく、人間として後輩の手本となる人に、俺はなりたいと強く思う。

今も昔も、人の動かし方に大きな違いは無いようだ。

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